REPORT
2019
08.14

ラグビーのタックルは肩に拳を作る

伊藤 剛臣 ラグビー 元日本代表(代表キャップ62)

writer:戸塚 啓

アスリートの言葉には説得力がある。トップクラスのアスリートになると、「なるほど」と頷かされるだけでなく、「そうだったのか」という驚きや発見も誘う。
ラグビー日本代表として1999年と2003年のW杯に出場し、46歳まで現役を続けた伊藤剛臣の言葉には、生々しい迫力がある。
名門の神戸製鋼で一時代を築き、トライアウトを受けて釜石シーウェイブスで現役を続けた男は、自らが愛してやまない競技の本質を分かりやすく、そして真摯に語るのだ。

伊藤剛臣の言語化

「肩に拳を作る」

現役時代の伊藤は、フランカー(FL)とナンバーエイト(NO8)を定位置とした。どちらも相手とのコンタクトプレーが何度も繰り返されるポジションだ。
「ラグビーで一番カッコいいプレーはタックルです。タックルができないと試合には出られないし、チームを勝利に導けない」と伊藤は語る。神戸製鋼と日本代表の先輩であり、スタンドオフやセンターで活躍した平尾誠二さんも、「タックルにいくときはいっていました。顔にけっこうキズがありました」と振り返る。16年に早世した平尾さんはラグビーの芸術性を知らしめたレジェンドだが、タックルの重要性を決して忘れていなかったということなのだろう。
タックルには基本姿勢がある。「かいなを返して肩に拳を作る」のだ。「かいなを返す」とは相撲の技術のひとつで、手のひらの甲を相手の背につくようにして肘を張る動きである。

実際にやってみると分かるのだが、「かいなを返す」と脇が強く締まり、腕全体に力が入る。そのとき肩は? 拳ができたように、ぐっと盛り上がっているはずだ。ラグビーのタックルとは、肩のこぶしをぶつけることなのである。
タックルに入る瞬間、「恐怖心がよぎったこともある」と伊藤は言う。しかしもちろん、タックルを避けたことは一度もない。
「アタックで突っ込めるのも、仲間がフォローしてくれる信頼感があるから。試合中に仲間が素晴らしいタックルをすると、僕は感動したものです。それがまた、僕に勇気を与えてくれた。ラグビーはそうやって、チームメイトと気持ちが重なっていく『響き合いのスポーツなんです』
相手の攻撃を食い止めるタックルは、チームメイトを奮い立たせるものでもある。ラグビーで一番かっこいいプレー──伊藤の言葉に納得できるだろう。

「試合が終わればノーサイド。お互いを称え合う」

ラグビー独特の文化に、「アフターマッチファンクション」がある。試合後に両チームの選手や関係者が集まり、軽い飲食を楽しみながら互いの健闘を称え合うのだ。
若き日の伊藤は、この時間が苦手だった。
「自分たちが勝った試合は気持ち良く参加できるのですが、負けた試合のあとは……。すぐにはノーサイドの精神になれなかったですね。悔しくて、悔しくて、相手チームの選手の顔を見たくなかったですから」

悔しさは自分への歯がゆさでもあったのだろう。チームの勝利に貢献できなかった責任感に歯噛みし、会場の隅で存在を消すことがあった。
「でも、年齢を重ねることで変わっていきました。精神的にも肉体的にも全力を出し切ったと思えると、勝敗は関係なしにスッキリした気持ちになるんです。ノーサイドの精神を実践できるようになりました。若い頃も全力を出し切っていたのですが、勝敗をフォーカスする気持ちが強かったのだと思います」
9月20日に開幕するラグビーW杯をきっかけに、4年前の前回大会に負けないブームが巻き起こるかもしれない。そのとき、「でも、ルールが分からないからなあ」と及び腰になるのはもったいない。
「レフェリーが笛を鳴らしたら、『何か反則があったのかな』というぐらいの感じで観てもらえればいい。ラグビーにはあなたの心を打つものがあります。細かいルールは気にせずに楽しんでください!」

熱量のある言葉は、聞き手の胸に響く。スポーツの深層を浮かび上がらせる。それもまた、『ALE14』がトップアスリートの経験を言語化していく理由である。

(文中敬称略)

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