REPORT
2019
10.14

ピラティスは身体をコントロールするための学習

辻 茜 ピラティス・マスタートレーナー

writer:岡野 嘉允

「背骨の、上から15番目を動かしてみてください」
そんなお題を出されたら、大抵の人は面食らうだろう。だが、ピラティスのオーソリティー・辻茜は「それをできるように“学習”するのがピラティス」と言い切る。見えない部分の骨や筋肉を意識し、正しく“コントロール”する――それがピラティスの本質なのだと。
「ヨガの仲間」でもなければ、「ハードな腹筋運動」でもない。
我々がなんとなく抱いていたピラティスのイメージを覆すパワーワードの数々。マスタートレーナ―として後進も育成するスペシャリストの言葉と理論は、驚きと発見に満ちていた。

辻茜の言語化

「ピラティスは学習」

なぜ、身体は動くのか。脳が身体に指令を出すからだ。
力こぶをつくる。これは容易い。肘を曲げて、上腕を力ませる――動かす筋肉も、動かし方もすぐにイメージできる。では、「インナーマッスルを動かせ」と言われたらどうか。「はい、分かりました」とはならないだろう。インナーマッスルの位置を把握できないため、脳が指令を出せないからだ。
レッスンの際、辻は口頭で指示やアドバイス=キューイングを送ることが多いと言う。身振り手振りはなるべくしない。「右手を背骨から剥がすように前に出してください。そうしたら、肩甲骨を背骨に寄せてください」といったように。

当然、言われた側は考える。「肩甲骨はどこにあるのか?」「“剥がす”ということはどういうことか」…。脳で言葉をイメージに変換し、当たりをつけて体を動かす。繰り返すうちに、肩甲骨の位置が把握できるようになり、「剥がす」動作の感覚もつかめてくる。辻たちはこれを「内観して動く」と表現する。ピラティスの核心に迫るキーワードだ。
繰り返すことで感覚をつかんでいく。それは「学習」そのものでもある。辻はピラティスをこう定義する。「自分の体を自分自身でコントロールするための学習です」。
正しく学んだ先には、足の指まで一本ずつ自在にコントロールできる自分が待っている。

「ピラティスは胸式呼吸と“動きの過程”」

インターネットで「ピラティス」と検索すると、関連ワードの上位に「ヨガ」が表示される。多くの人が、何が違うのかを理解できていないのだろう。
根本的な違いは呼吸法だ。ヨガは腹式呼吸、ピラティスは胸式呼吸をベースとする。胸式呼吸で、常に腹圧を掛ける。平たく言えば、お腹をへこませた状態をキープしてエクササイズを行うのがピラティスだ。
会場で辻が、ピラティスならではの、言葉によるキューイングを披露する。「普段より3つくらいサイズを下げたズボンを履いて、チャックを閉めます。そのチャックが開かないように、鼻から息を吸って、口からそっと吐いていきます」。

言葉をイメージに変換し、行動に落とし込んだ会場の人々が、呼吸法を学習する。数回繰り返したところで、辻が一言。「これで、既に姿勢が保たれているはずです」。確かに、一同の姿勢は端然としている。
この呼吸法によって、腹横筋という深層の腹筋群が鍛えられ、自然と正しい姿勢が身に付く。さらに、肋骨の表裏についた筋肉を意識できるようになり、やがては肋骨の旋回、それに連なる背骨もコントロールできるようになるという。

ピラティスは常に動いている。これも、ポーズをとった状態で行うことが多いヨガとの大きな違いだ。
そして、“動きの過程”にこそ最大の意味がある。「この動きをすると、背骨の何番目が動く。その次にここが動いて」…。意識が行き届かなかった骨や筋肉の動きにフォーカスを当てることで、身体操作の正確性が向上するのだ。

難しいようにも感じるが、もともとはリハビリから始まったメソッド。怪我を負った人はもちろん、子供の教育にも有効とされているなど、入口のハードルは決して高くない。 「自分のことを自分で理解する。体と日常生活が変わっていく。それがコントロールということです」。

自分も変われそうな気がする――。ピラティスのエッセンスを解きほぐした言葉に、会場の多くの人がそう思ったに違いない。

(文中敬称略)

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